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新しいNi-Tiファイル「JIZAI」と超音波用スクエアファイルを用いた臨床

新しいNi-Tiファイル「JIZAI」と超音波用スクエアファイルを用いた臨床
新しいNi-Tiファイル「JIZAI」と超音波用スクエアファイルを用いた臨床

根管拡大の目的

根管形成の目的は根管内の感染源を取り除くことであるが、複雑な根管系の感染源を取り除くためには、根管に追従した形成が必須である。 ニッケルチタンファイル(以下Ni-Tiファイル)を使用したとしても、ファイルがあたるのは根管壁の60~80%という報告1)もあり、化学的洗浄の併用が必要なことは確かであるが、根管に追従していない根管形成が行われていれば、根管系には多くの感染源が残されることになり効率のよい化学的洗浄を行うことさえもできなくなる。 Ni-Tiファイルが開発される以前は、手用ステンレススチールファイルを用いて根管の機械的拡大を行っていたが、ステンレススチールファイルは太くなるほどその柔軟性を失っていくため、根管形成は主根管を逸脱して形成される傾向があった。そのためにプレカーブをつけ、ファイルの動かし方や、根管形成法に工夫をこらしながら根管に追従する形成を行っていた。

Ni-Tiファイルを使う理由(メリットとデメリット)

Ni-Tiファイルが持つ超弾性という特性から、ある一定の弱い力で大きく曲げることが可能である2)(図1)。つまり、彎曲した根管内にNi-Tiファイルが入っても、元の形に戻ろうとする力が小さいため、根管に追従した根管形成ができるということになる。この超弾性という特性を使って初期のNi-Tiファイルは作られた。 しかし、根管形成を行うにあたり、この超弾性という特性には別の問題があった。超弾性を発揮するNi-Tiファイルは小さい力で大きく曲げることができる一方、その小さい力を取り除くとファイルは元の形に戻ってしまう。再根管治療で前医がレッジを形成しているような根管では、本来の根管を探るためファイルにプレカーブをつける必要がある。初期のNi-Tiファイルではプレカーブをつけることができないため、再根管治療の症例ではNi-Tiファイルの使用をあきらめることもあった。 図1 ニッケルチタンはある一定の弱い力で大きく曲げることが可能。(文献2より改変)

Ni-Tiファイルの歴史

現在のNi-Tiファイルは従来のNi-Tiファイルの持つ問題を一つずつ解決し改良されてきている。 柔軟な初期のNi-Tiファイルは彎曲根管を追従するように形成することができる一方、根管内での切削力はあまりよくなく、断面形状を工夫することにより切削能力を高めていた。しかし、切削能力を高めるために改良を加えた形状は、根管の微妙な彎曲に追従せずレッジやジップをつくる一因にもなっていた。 プレカーブをつけられないという欠点を補うため、超弾性を発揮するオーステナイト相から少しマルテンサイト寄りのNi-Tiファイルが開発された。R相と呼ばれ、ファイルにはプレカーブを付与することが可能となったが、筆者の感覚では臨床で必要とするプレカーブを付与できるような状態ではなかった。 さらに矯正のワイヤーで使われているような形状記憶タイプ(マルテンサイト相)のNi-Tiファイルが発売されたときには、せっかくの超弾性という特性が失われてしまうのではないか、と心配したのも記憶に新しい。マルテンサイト相のNi-Tiファイルはとても柔軟であり、プレカーブも自由に付与することが可能となり、Ni-Tiファイルの使用法を大きく変化させた。

新しいNi-Tiファイル「JIZAI」

(図2) JIZAI(マニー)はR相の中でもマルテンサイト相寄りのNi-Tiファイルというところに位置するため、今までできなかったプレカーブを付与することが可能となっている(図3)。 断面形状にラジアルランドを有しているため根管への追従性があがっている(図4)。その分、負荷が大きくなり破折しやすいのではないかという心配もあるが、JIZAIは破断強度が高く、筆者の臨床使用感でもやはり折れにくいという印象がある。しかし、どんなファイルでも絶対折れないということはなく、無理な操作をすれば折れることもある。 新しいNi-Tiファイルを使用する際には、どこまで無理なことをすれば折れるのか、使用する前に抜去歯や透明根管模型で十分練習してから臨床応用することを筆者は勧めている。 図2 新しいNi-Tiファイル「JIZAI」 図3 はプレカーブを自由につけることができるほど柔軟である。 図4 断面形状にはラジアルランドを有する。

フルレングス法か、クラウンダウン法か

初期のNi-Tiファイルは根管内での破折を防ぐために、根管内でファイルにかかるストレスを少なくするためクラウンダウン法を推奨していた。 Ni-Tiファイル自体の破断強度が増したこともあり、JIZAIはフルレングス法による形成を推奨している。しかし、筆者はやはりクラウンダウン法に基づく根管形成を臨床で行っている(図5)。 臨床では根尖部の複雑な根管系に追従した根管形成を行わねばならない。その彎曲は2度3度と曲がることもあり、また3次元的に彎曲していることもある。このような根管系を少ない本数で根管形成できるのが最近のNi-Tiファイルであるが、彎曲の状態によっては「さっきまで作業長まで入っていたのに、このファイルではなかなか作業長に到達しない」というようなことが起こる。理由は番手が上がることによる柔軟性の違いや、根尖部彎曲の複雑性、根尖の彎曲部分に作ってしまったレッジなどが考えられる。 このような時は無理に作業長まで到達させようとはせず、一つ前もしくは二つ前の番手に戻ることが必要である。前の番手に戻って作業長まですんなり入ってくれれば良いが、彎曲の複雑性やレッジによる場合には前の番手も入らなくなることもある。これは元々の根管が複雑なため生じたトラブルであり、ただ前の番手に戻るだけでは状況を悪化させる可能性がある。 クラウンダウン法は、番手を戻ることにより根管上部の形成を少しずつ広げ修正することから始めるので、複雑な根尖部の彎曲に対するトラブルにも対応することができるのが利点である。単純な彎曲であればどの根管形成法でも上手くいくが、臨床で問題となるのは複雑な根管系に対する対応であると考え、筆者はクラウンダウン法を採用している。 図5 によるクラウンダウン法

JIZAIを使ったクラウンダウン法による根管形成

筆者が行っている根管形成法を紹介する。ゲーツドリルでコロナルフレアを形成した3)のち、プレカーブを付与した#10スーパーファイルを用いて根管の探索(ネゴシエーション)を行う。このネゴシエーションにはトライオートZX2のOGPモード(100rpm、90deg)を使用する(図6)4、5)。 プレカーブを付与した#15スーパーファイルでグライドパスを形成し、JIZAIによる根管形成を行う。まず根管内に挿入する#25/06は作業長まで無理にいれず、OTRによるトルクリバースが2、3回かかったところで、次の#25/04にファイルを変更する。 #25/04が作業長まで入らなければ、#25/06と#25/04を繰り返すが、それでも作業長にファイルが到達しないのであれば、スーパーファイルによるグライドパスを再確認する。 根尖部で彎曲の強い根管などでは#15スーパーファイルによるグライドパスを十二分に行っていないと、#25/04がなかなか作業長まで入らないこともある。グライドパスが重要と言われるゆえんである。#15スーパーファイルによるグライドパスができているにもかかわらず、やはり#25/04が作業長まで入らない場合の対処法として、JIZAIにプレカーブ(図7)を付与してOGPモード(300rpm、90deg)で根尖部の形成を行う方法がある。時間は多少かかってしまうが、根尖部の複雑な彎曲に対応できる方法の一つである。 #25/04が作業長まで到達したら、再び#25/06をOTRによるトルクリバースが2、3回かかるところまで挿入し、#35/04が作業長まで入るまでこの操作を繰り返す(図8)。上顎大臼歯の近心.側第二根管のように細くて彎曲の強い根管であれば、何度かこのステップを繰り返すこともあるが、ほとんどの根管は繰り返すことなく#35/04が作業長まで到達する。口蓋根管などの太い根管であれば、最初の#25/06が作業長に到達するので、あっという間に#35/04までの根管形成が終了することになる。この場合は結果的にフルレングス法6)とほぼ同様の術式ということになる。 クラウンダウン法は最初に太いファイルから挿入していくため、難しくない根管ではあっという間に根管形成が終了するという利点もある。 図6 トライオートZX2によるOGPモード(左)とOTRモード(右)。 図7 根尖部の複雑な彎曲に対応するため、JIZAIにプレカーブを付与する。Ni-Tiファイルにつけたプレカーブは根管内で元に戻りやすいため、300rpm、90degのOGPモードで何度かトライする必要がある。 図8 による下顎第二大臼歯の根管治療。a.b.根管充填前 c.根管充填後のX線写真

超音波用スクエアファイルの臨床

Ni-Tiファイルによる根管形成により、根管に追従する形成が効率よくできるようになったが、残念ながらNi-Tiファイルによる根管形成でも主根管の根管壁の約30%には触ることができない1)。ましてや再根管治療で既に根管を逸脱しているような形成が行われていると、根尖部の感染源を的確に取り除くのは困難である(図9)。 20年前は手用ステンレススチールファイルを用いて、根尖部の感染源を除去していた。しかし、この方法では手指が顕微鏡下の視野を遮ってしまうため、顕微鏡下でせっかく見えていた根尖部の感染源も除去操作中は見ることができず、結局手探りの処置となってしまっていた。 根尖の取り除けない感染源を除去するために様々な工夫がされ、特殊なインスツルメントも開発されているが、筆者が最も効率がよいと感じ臨床で応用しているのが新しい超音波用スクエアファイル(マニー)である(図10)。 超音波チップは今までも多く発売されているが、根尖部の感染源を的確に除去することが可能な超音波チップは今まで存在しなかった。 図9 本来の根管を逸脱して根管形成してしまうと、根管の彎曲部や根尖部に存在する感染源(赤)を機械的に取り除くのが難しくなる。従来は手用ステンレススチールファイルにプレカーブを強くつけて除去していた。 図10 超音波用スクエアファイル。

超音波用スクエアファイルの特徴

従来の超音波用ファイルはネック部分が太く、根尖にチップを入れようとすると、根管口を塞ぐようになってしまい、根尖を顕微鏡下で見ることができなかった。超音波用スクエアファイルはネック部分が細いために根管口付近で視野を妨げることがない(図11)。 また、超音波用スクエアファイルは太さがほぼ均一であるため、柔軟性があり、歯科用ピンセットでも容易にプレカーブを付与することができる(図12)。以前の超音波用ファイルではエンドプライヤーのような特殊な器具を用いてプレカーブを付与していたことを考えると、臨床では使い勝手が良いファイルになっている。 根管口の視野を妨げず、自由にプレカーブをつけることができるため、根尖部の取り除けない感染源の除去(図13~15)やイスムス内の感染源の除去(図16~18)に有効であり、また根管内破折ファイル除去の際にも破折ファイルの内彎側に的確に超音波振動を与えることが可能となる(図19~21)。 この超音波用スクエアファイルは細い設計となっているため、根管内での破折というリスクがある。特にプレカーブを何度も付与すると破折しやすくなるのも事実である。しかし、根管内破折ファイルのように根管に食い込んで折れるわけではないので、新しい超音波用スクエアファイルに替えて、顕微鏡下であわてずに振動を与えれば容易に除去することが可能である。 図11 超音波用スクエアファイルと従来の超音波用ファイル(自社比較)。先端だけでなく、ネックの部分(矢印)まで細くなっているため、根管口で視野を塞ぐことがない。 図12 超音波用スクエアファイルはピンセットで容易にプレカーブを付与できる。 図13 作業長まで根管拡大形成が終わったつもりでも、根尖部の壁にガッタパーチャが残っている。 図14 超音波用スクエアファイルを用いて根管壁からガッタパーチャを剥がし取る。 図15 除去したガッタパーチャは見えていたものよりかなり大きい。この周囲に感染源があれば再発してくる可能性が高い。 図16 イスムス部に残っているガッタパーチャ。 図17 超音波用スクエアファイルを用いて除去。 図18 ガッタパーチャと感染源の除去後。 図19 術前のX線写真。左上第一大臼歯の根尖部に破折ファイル様の不透過像がみられる。 図20 超音波用スクエアファイルを用いて破折ファイルの内彎に振動を与える。 図21 根管口に出てきた破折ファイル。

超音波による洗浄効果

超音波による洗浄効果(Passive ultrasonic irrigation)が他の方法に比べて有効であるかはまだ不明であるが、通常の洗浄針だけによる洗浄よりは効果がある7)。 再根管治療で根尖部の旧根管充填材を除去しなければならないことを考えると超音波用スクエアファイルは有効であると思われる。 根尖部に残っている感染源を機械的な清掃をせずに洗浄だけで取り除くのは困難であることも考えると、この超音波用スクエアファイルを用いて根尖部の感染源を的確に取り除きながら、洗浄の補助効果も期待できるのであれば一石二鳥と言えるのではないだろうか。

まとめ

新しいNi-Tiファイル「JIZAI」を用いて根管に追従する形成を行い、それでも除去しきれない部分を新しい「超音波用スクエアファイル」による仕上げを行う。もちろん、化学的洗浄も併用することにより、効率の良い根管形成が可能となる。 参考文献 1)Peters OA. Current challenges and concepts in the preparation of root canal systems: a review. J Endod 2004 ; 30(8) : 559-567. 2)吉川剛正. ニッケルチタン製ファイルの特徴と根管形成.抜髄 Initial Treatment 治癒に導くための歯髄への臨床アプローチ. ヒョーロン; 2016, 291-308. 3)澤田則宏, 吉川剛正. 誰でも治せる歯内療法 歯内療法専門医が1から明かすテクニック. In. 東京: クインテッセンス出版; 2007. 4)澤田則宏, 的場一成. ネゴシエーションの新たな試み. 日本歯内療法学会雑誌 2017 ; 38(2) : 107-113. 5)Sawada N. Negotiation of root ca-nals using Triauto ZX2 : a case report. Int J of Microdent 2020 ; 2 : 24-27. 6)辻本恭久. マニー新型NiTiロータリーファイル「JIZAI」の開発コンセプトから使用法について. Dental Magazine 2020:26-30. 7)Susila A, Minu J. Activated Irrigation vs. Conventional non-activated Irriga-tion in Endodontics - A Systematic Review. Eur Endod J 2019;4(3):96-110.

著者澤田則宏

東京都新宿区 澤田デンタルオフィス 院長

略歴
  • 昭和63年 東京医科歯科大学歯学部 卒業
  • 平成4年 東京医科歯科大学歯学部 大学院修了
  • 歯学博士
  • 平成4年~東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務
  • 平成7年~東京医科歯科大学歯学部 文部教官
  • 平成9~10年米国ペンシルバニア大学留学
  • 平成14年~澤田デンタルオフィス開院
  • 東京医科歯科大学非常勤講師
所属学会
  • 日本歯科保存学会 歯科保存専門医 評議員
  • 日本歯内療法学会 歯内療法専門医 ガイドライン策定委員会副委員長
  • 日本顕微鏡歯科学会 認定指導医 理事
  • American Association of Endodontists
澤田則宏

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