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ウイズコロナの時代と対策 その8 慢性上咽頭炎と病巣感染

ウイズコロナの時代と対策 その8 慢性上咽頭炎と病巣感染
ウイズコロナの時代と対策 その8 慢性上咽頭炎と病巣感染
「風邪は万病の元」という言葉がある。
一般的な風邪は急性上咽頭炎であるが、慢性化すると"慢性上咽頭炎"になる。(注1)
この病名は、医科でもあまり認知されていなかった。



しかし最近、急速に注目を集めている。
上咽頭は感染しやすい場所なので、絶えず弱い炎症でくすぶり続けている。
これが病巣感染の引き金となることがわかってきた。
"万病の元"の言葉は、病巣感染を意味していたのかもしれぬ。
IgA腎症、掌蹠膿疱症、アレルギー、その他の不定愁訴に対し、まず上咽頭の炎症を調べる。
そして、収斂剤である塩化亜鉛をしみこませた綿棒で咽頭をこする。
これが上咽頭擦過療法(別名EAT"イート")である。(注2)



これで劇的に改善される例が後をたたない。
しかし、この治療法の欠点は非常に痛い。
また、標準治療ではないため、行っている耳鼻科医院は数えるほどしかない。
そこで家庭でも行える安全な方法として"鼻うがい"がある。


https://www.dental-plaza.com/article/flo_sinus_care/

さて病巣感染の考え方は、医学の父 ヒポクラテスの時代からあった。
歯に関しては、1911年英国の医師W・ハンターが「Lancet」に歯髄死した歯の根尖部からの細菌が、離れた部位に二次的病変を生じさせるという口腔敗血症説(Oral Sepsis)を発表した。
さらに1916年、アメリカの内科医F・ビリングスは動物実験を通じて病巣感染説を提唱し、その中心的部位は扁桃(扁桃病巣感染)と歯(歯性病巣感染)とした。
齲蝕を放置すると心臓病や敗血症などの重篤な病気を引き起こす可能性があり、次々と歯が抜かれたという。

さて手元に、世界の無歯顎者率の資料がある。(注3)



日本では、65~74歳 10.4%、65歳以上 18.3%である。(2005年歯科疾患実態調査)
しかし、ベルギー41%(65歳、1998)アメリカ43.9%(75歳以上、1988-1991)、イギリス46%(65歳以上、1998)カナダ58%(65歳以上、1993)、オランダ61%(65歳、1998)と軒並み高いので驚いた。
これは、歯科医療費が高いためだと思っていた。
しかし年代的に、歯性病巣感染を恐れ、次々に抜歯が行われていたためかもしれぬ。

続く

注1:慢性上咽頭炎
https://jfir.jp/chronic-epipharyngitis/
注2:上咽頭擦過療法(EAT"イート":Epipharyngeal Abrasive Therapy )で医院名を検索可能
注3:187の国・地域における無歯顎者率
https://www.8020zaidan.or.jp/databank/doc/1_04_g6.html

著者岡崎 好秀

前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授

略歴
  • 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
  • 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
所属学会等
  • 日本小児歯科学会:指導医
  • 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
  • 日本口腔衛生学会:認定医,他

歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
知っているようで知らなかった、歯に関する目からウロコのコラムです!


岡崎 好秀

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