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呼気医療への期待

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新型コロナウイルス検査から
呼気医療への期待

新型コロナウイルス検査から<BR>呼気医療への期待
新型コロナウイルス検査から
呼気医療への期待
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を奮っています。日本では第3波の到来で、感染者数の記録を更新しています。それと共に、ワクチンや治療薬の開発も凄まじいスピードで進んでいます。検査方法も、鼻腔や咽頭を拭うものから唾液で採取するものへ、より簡便な方法が出てきています。

そして、もっと早く、数秒で検査結果が出せるものとして注目されているのが呼気検査です。日本では東北大学大学院と島津製作所が共同で呼気による検査システムを開発しました。5分間の安静時呼吸を採って、1mL程度の呼気凝縮液を生成し、被験者自身の操作で新型コロナウイルスの検査ができるという画期的なシステムです。

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2020/10/press20201016-03-breathomics.html

一方、イギリスのラフバラー大学でも呼気で検出する装置で臨床試験を行いました。スコットランドとドイツで行われた臨床試験の結果が下の論文に発表されています。

Ruszkiewicz DM et al. Diagnosis of COVID-19 by analysis of breath with gas chromatography-ion mobility spectrometry - a feasibility study. EClinicalMedicine. 2020 Oct 24:100609.

この装置は元々、肺がんなどの疾病を検出したり、ウイルス性や細菌性の呼吸器疾患の識別のために開発されたそうです。約100人を対象とした臨床試験の結果、80%の患者で喘息や細菌性肺炎といった呼吸器疾患とCOVID-19を正確に識別できました。よって、この装置を使った後に、従来の検査で確定するということが考えられます。順調に行けば、6ヶ月程度でこの装置を市場に出せるとのことです。

呼気を使う検査は非侵襲的で迅速で、サンプル採取に専門家が必要なく、結果が数分で出るという利点があります。COVID-19だけではなく、様々な疾患の検出に応用できる有望な検査です。そして、この分野を「呼気医療」と呼ぶそうです。呼気医療によって、心血管疾患、肺疾患、糖尿病、がん、その他の生活習慣病の診断をより簡単に行ったり、在宅での健康管理・健康診断と遠隔医療の連携にも新しい展望が開けます。

http://www.qlifepro.com/news/20201019/omics-exhalation-covid-19.html

呼気医療の起源は、実は紀元前400年頃のヒポクラテスまで遡るそうです。彼の著者に「呼気の匂いが、様々な疾患の診断の鍵となる」と記載しているそうです。それから時を越えて近代になり、ガスクロマトグラフィーの登場で、呼気中のガスや揮発性有機物質の分離・定量が医療でも行われるようになりました。

澤野 誠. 呼気分析による医療診断のこれまで,そしてこれから. Medical Gases. 2018 20 (1): 17-22

歯科医療現場では口臭検査に呼気を使っていますので、まさに呼気医療を活発に実践している場です。口臭検査を通して内臓疾患の疑いをかけ、早期発見に繋がることもあります。これを発展させて、新型コロナウイルス検査や、未来型呼気医療を取り入れたいものです。口臭検査以外にも社会に貢献する「呼気歯科医療」は、無尽蔵の可能性を持っているといえるでしょう。

著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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