患者さんの口腔の健康を支えるのが、歯科技工士の仕事です。
近年はデジタル技術を上手く活用しつつ、精密な技工物を製作していくこととなります。
今回は、歯科技工士になる方法や仕事内容、魅力やキャリアステップについて解説します。
歯科技工士になるためのステップ
歯科技工士は、国家資格の必要な仕事です。
歯科技工士になるには、歯科技工士学校に入学したのちに国家試験を受験し、資格を取得する必要があります。
歯科技工士学校(歯科技工士養成所)への入学
まずは、歯科技工士に必要な技術や知識を学ぶために、歯科技工士学校(歯科技工士養成所)へ進学しましょう。
歯科技工士学校を受験することができるのは高校卒業者(あるいは同等の認定取得者)です。
歯科技工士を教育する学校としては、専門学校や短期大学、4年制の大学が挙げられます。
専門学校や短期大学は、基本的に2年制です。
一部、3年制でCAD/CAM技工やスポーツ歯学といった分野を教える専門学校もあります。
4年制大学では、歯科技工士に関連する内容のほか、一般教養課程として外国語などを学ぶことも可能です。
歯科技工士国家試験の受験〜資格の取得
歯科技工士学校で学んだのち、歯科技工士国家試験を受験します。
歯科技工士国家試験は、年に1度、2月頃に実施されています。
過去の歯科技工士国家試験の合格者は、2018年度798名(合格率95%)、2019年度838名(合格率95%)でした。
【試験科目】
・歯科理工学
・解剖学
・顎口腔機能学
・有床義歯技工学
・歯冠修復技工学
・矯正歯科技工学
・小児歯科技工学
・関係法規 など
+実地試験も伴います。
歯科技工士の仕事内容
歯科技工士の主な仕事内容は、患者さんの歯の形に合わせて、入れ歯や差し歯、補綴物や歯列の矯正器具などを製作することです。
たとえば、補綴物を製作する場合、まず歯科医院で患者さんの印象が採取されます。
印象後に石膏を流しを行い、硬化してできた石膏模型が、歯科医院内に勤務する歯科技工士、または歯科医院が提携している歯科技工所へ渡されます。
石膏模型を受け取った歯科技工士は、金属やセラミックなどを歯型に合わせて加工します。
近年は、歯科用CAD/CAMシステムや3Dスキャナーを活用することで、精密な技工物を作ることが可能となっています。
完成した補綴物は、期日(患者さんの治療日)に間に合うように歯科医院へ納品します。
歯科技工士の仕事・キャリアの魅力
人間の口腔内は、敏感かつ繊細な場所です。
わずかな歯の変化であっても、患者さんの違和感の元になってしまう可能性があります。
そのため、歯科技工士が製作する技工物は、0.何ミリ単位の精度の高さを求められます。
歯科技工士には、注文通りの技工物を製作するための集中力や器用さが必要となるでしょう。
また、技工物が患者さんの見た目を損なわないよう、審美性の高い(見た目では人工物とわからない)技工物を作ることもあります。
ある意味では、芸術家・職人のような側面を持っている仕事です。
そんな歯科技工士の仕事の魅力は、患者さんの健康やQOL(生活の質)を守るために欠かせない役割であるということ。
人は歯に痛みや違和感があると、飲食する度に苦労します。
患者さんが普段通りに・快適に過ごすことができるのは、歯科技工士の技術があってこそです。
直接的に患者さんと関わることは少ないものの、陰で患者さんの健康を支える魅力ある仕事といえるでしょう。
歯科技工士がスキルアップする方法
歯科技工士として、スキルを高めていくためには日々の努力が必須です。
スキルアップする方法を解説します。
模型の作製・練習
経験の浅い歯科技工士は、患者さんの技工物をいきなり作るわけではなく、一般的に模型をつくる練習からスタートします。
模型作りは難しく、重要な業務です。
模型作りで患者さんの口腔内を再現し、その歯型に合う技工物を製作する修行を積みます。
たとえ模型作りであっても正確に作るよう心がけましょう。
模型作りを何度も繰り返すことで、少しずつ技術を高めていくことができます。
歯科技工士は、一人前の技術レベルになるまでに5年〜10年かかるともいわれます。
地道な努力ができる方に向いている仕事です。
研修会への参加
全国で開催されている研修会などに参加することで、スキルアップを目指す方法もあります。
例えば日本歯科技工士会では、『CAD/CAMシステム』や『3Dプリンター』、『補綴物製作』といったさまざまなテーマで研修を行っています。
興味のあるテーマの研修に参加し、スキル・知識の向上に役立てましょう。
職場によっては、研修の参加費を補助してくれる歯科医院もあります。
職場の条件を確認するか、担当者に相談してみましょう。
新たな技術の習得
技術をより磨いていくために、新しい技術の習得も大切です。
たとえば、身体に取り付ける医療用具『エピテーゼ』の製作は、歯科技工士の枠に捉われない仕事ができるようになるかもしれない技術です。
例として、乳がんで乳房を切除した方に対し、乳頭のエピテーゼを製作することで、日常生活を快適に過ごしてもらえます。
他にも、映画撮影の特殊メイクにも役立てることができます。
歯科技工士の多様なキャリアステップ
歯科技工士としてスキルアップし、さまざまなキャリアの道を進むことができます。
最後に、歯科技工士の多様なキャリアステップとその方法について紹介します。
認定歯科技工士資格の取得
日本顎咬合学会主催の『認定歯科技工士資格』を取得する方法です。
同学会では、顎口腔系の解剖・組織・病理などの基礎学問に基づき、患者さんの咀嚼機能の回復・維持を図るための『顎咬合学』をメインテーマとして認定資格制度を設けています。
【受験条件】
・日本顎咬合学会に所属していること
・臨床経験が4年以上あること
・認定研修に参加すること など
検定試験に合格すると資格を取得でき、専門的なスキル・知識を高めることにつながるでしょう。
他の歯科医院への転職
入職した歯科技工所や歯科医院で一定のスキル・経験を積み、他の歯科医院へ転職する方法もあります。
歯科医院とは分離された歯科技工所で働いている場合、1つの歯科医院専属の歯科技工士に転職すれば、歯科医師や歯科衛生士とより密なコミュニケーションを取りながら患者さんの希望とする技工物の製作を実現することができるでしょう。
また、経験や資格を評価してもらうことで、転職前の職場より高待遇の職場へ転職できる可能性もあります。
独立・歯科技工所の開設
歯科技工士は、独立して歯科技工所を構えることも可能です。
まずは個人として開業し、取引先を増やしてから、法人化・組織化することもできるでしょう。
独立するメリットとしては、自身が極めたい分野に注力し、売上次第で収入を伸ばせることなどが挙げられます。
組織化して、若い歯科技工士を雇い、優秀な人材を育てることもできます。
【関連】歯科技工士の独立開業に必要な準備とは?メリットや注意点、間借りなどの種類も解説
海外で活躍
専門の教育機関で学び、国家資格を有す日本の歯科技工士は、世界的に高く評価されています。
人の住んでいる地域であれば、医療の需要があるため、海外の歯科技工所や歯科医院でも働くことができるでしょう。
言語や文化の壁、感染症の影響などはありますが、海外の技工技術やさまざまな人種の口腔内について学べることは魅力といえるでしょう。
歯科技工士としてスキルやキャリアを磨こう!
歯科技工士は、患者さんの口腔を守るために欠かせない仕事です。
これまでお伝えした通り、熟練の歯科技工士になるには、数年〜数十年にわたり、技術を磨いてく必要があるでしょう。
歯科技工士としてキャリアを積めば、独立・開業も視野に入れられるかもしれません。
今回ご紹介した方法を参考にしつつ、スキルやキャリアを磨いてみてください。