歯科医師や歯科医院経営者の中には、働き方改革に取り組んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一方で、働き方改革がどのようなものなのかいまいち理解できていない方も少なくないはずです。
本記事では、歯科医院における働き方改革の概要から具体的な内容、ポイントや注意点などについて解説します。
そもそも働き方改革とは
働き方改革とは、一人ひとりの状況に応じた柔軟な働き方ができるようにすることを目的とした改革のことです。
職場はもちろん、地域や家庭などで誰もが活躍できる社会を実現することを目指しています。
ここでは働き方改革について、以下の点を解説します。
・働き方改革に取り組むべき理由・社会的背景
・働き方改革関連法案とは
働き方改革に取り組むべき理由・社会的背景
働き方改革が行われている背景には、日本の生産年齢人口の減少と、働き方の多様化が挙げられます。
現在の日本は少子高齢化によって、15歳〜64歳の労働力の主力となる「生産年齢人口」が減少し続けている状況です。
また、育児をしながら働く人、介護をしながら働く人など以前まではあまりみられなかった働き方をする人も増えており、ニーズが多様化しています。
このような状況に対して企業は、労働力を確保するために一人ひとりのニーズに応じた就業機会の提供や生産性の向上、さらには従業員の満足度向上などに努めなければなりません。
もちろん、歯科医院も同様です。
こういった背景から働き方改革が取り組まれています。
働き方改革関連法案とは
働き方改革関連法案とは、働き方改革を進めるために整備された法律のことです。
この法律によって以下のようなことが定められました。
・残業時間の上限規制
・雇用形態に関係ない待遇の公正化
・年5日の年次有給休暇取得の義務化
など
一部の規則には罰則も定められているため、企業側は注意しなければなりません。
歯科医院における主な働き方改革の内容
働き方改革による新たな規則に対しては歯科医院も対応しなければなりません。
ここでは、歯科医院が働き方改革に対してどのように対応しなければならないのか、以下の点について解説します。
・時間外労働の上限規制
・年5日の有給休暇取得
・同一労働同一賃金
時間外労働の上限規制
働き方改革によって、これまでは具体的に設定されていなかった時間外労働の上限が定められました。
具体的には、40時間/週を超えて働くと超えた分は時間外労働とみなされます。
また、時間外労働は45時間/月、360時間/年と上限があるため、注意しなければなりません。
ただし、特別な事業がある場合に限り残業時間を100時間/月まで延ばすことができます。
注意点としては、6ヶ月平均で80時間以内に収める必要があります、
従業員が時間外労働を行う際には、通常の賃金に加えて割増賃金が発生します。
割増は通常の賃金の25%分となるのが基本ですが、月60時間を超える分に関しては50%分の割増賃金を支払わなければなりません。
この点にも注意が必要です。
年5日の有給休暇取得
働き方改革関連法案により、企業は10日以上の有給休暇が付与されている従業員に対して、年5日の有給休暇を取得させることが必須となりました。
有給休暇は労働者の権利であり、働き方改革が推進される以前から制度として存在していました。
しかし、有給休暇を取得するためには従業員側から申請しなければならず、「他の従業員が有給をとっていない」「人数が少ないから休めない」といった理由で、申請しにくい状況にありました。
このような状況を踏まえ働き方改革関連法案では、10日以上の有給休暇が付与されている従業員に対して、年5日の有給休暇を与えることを義務づけています。
これは、正社員だけでなくパート職員などの非正規雇用者にも適用されるため、歯科医院においても注意してください。
なお働き方改革関連法案では、企業が従業員の労働時間を把握することも義務づけられています。
これは、従業員の健康管理をするため、そして過重労働を防ぐためです。
歯科医院側は、スタッフの労働状況などを踏まえ有給休暇を取得させる必要があります。
同一労働同一賃金
働き方改革関連法案では、雇用形態に関係なく同一労働同一賃金にすることが定められています。
同じ業務を行なっているにもかかわらず、正社員と非正規雇用者の間で待遇格差が生じていることが以前から問題となっていました。
今回の働き方改革により企業側は、雇用形態に応じた待遇格差を是正しなければなりません。
なお、もし待遇に違いがある場合は、従業員に対してなぜ違いがあるのかその理由を説明する必要があります。
歯科医院における働き方改革のポイント・注意点
ここでは、歯科医院が働き方改革に取り組む際にどのようなことに注意しなければならないのか、以下の点について解説します。
・罰則に注意!働き方関連法案の遵守
・ムリ・ムラ・ムダの排除
・経費管理や経営効率の重視
罰則に注意!働き方関連法案の遵守
働き方改革関連法案で定められた内容を守らなければ、企業は罰則を受けることとなります。
例えば、上限を超えて時間外労働をさせてしまった場合、6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科されます。
これは、たとえ残業代を適切に支払っていたとしても上限を超えると違反となるため注意してください。
違反により、実際に書類送検された企業もあります。
有給休暇の取得義務があるにもかかわらず年5日の取得をさせていない場合は、30万円以下の罰金が科されます。
なお、これは従業員1人あたりに対する罰金であり、2人なら最大で60万円というように、金額が膨れ上がるケースもあるため注意が必要です。
このような事態を避けるためにも、どのスタッフに有給休暇の取得義務があるのか、誰がどのくらいの有給休暇を取得しているのかこまめに確認してください。
なお「同一労働同一賃金」に関しては、特に罰則等は定められていません。
それでも、待遇格差が是正されなければ、スタッフの不満につながる可能性もあるため適切に対応する必要があります。
ムリ・ムラ・ムダの排除
スタッフの時間外労働を少なくするためには、普段の業務からムリ・ムラ・ムダを排除する必要があります。
ムリ・ムラ・ムダの概要は以下の通りです。
・ムリ:従業員が自身の能力以上の仕事を担当しなければならない状況
・ムラ:ムリとムダが混在しており、時間によって両者があらわれる状況
・ムダ:従業員が自身の能力以下の仕事をしなければならない状況
スタッフのスキルを見極めつつ、その人の能力にあった仕事を割り振ることがムリ・ムラ・ムダの排除につながります。
また、歯科医院の業務をIT化・機械化することも効果的です。
例えば会計を自動精算にすれば、従業員にとってのムリやムダが排除できるでしょう。
経費管理や経営効率の重視
歯科医師や歯科医院経営者は、経費の管理や経営効率をしっかりとチェックする必要があります。
例えば、人件費は働き方改革推進に伴い、特に確保しなければなりません。
冒頭でも触れているように、近年では少子高齢化により生産年齢人口が減少しており、人手不足に陥る企業が多く存在します。
これは歯科医院も同様でしょう。
また、働き方改革関連法案によって時間外労働に上限ができ、有給休暇を取得する人も増えるため、その分人材を雇用しなければなりません。
このように人材不足の中で人材を確保するためには、給与水準上げるなど条件面での改善が必要であり、そのためにも人件費の見直しが欠かせないと考えられます。
人件費を確保するためには、経営者をはじめとしてスタッフ全員が経費に対する意識を持ち、無駄な経費を発生させないようにしなければなりません。
また、業務における無駄を排除できれば、経営効率が向上するため、割増賃金などの負担も減るでしょう。
まとめ
今回は働き方改革に関して、その概要から具体的な内容、歯科医院における注意点などについて解説しました。
働き方改革関連法案では、時間外労働の上限設定や有給休暇の取得義務など罰則付きの規則が定められています。
歯科医院は、法律を遵守し適切な経営管理を行うことが求められます。
ぜひ今回の内容を参考に、働き方改革に取り組んでみてください。