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スッキリ納得、カリエスリスクファクターの考え方

スッキリ納得、カリエスリスクファクターの考え方
スッキリ納得、カリエスリスクファクターの考え方
齲蝕にまつわる様々な因子を「リスクファクター」と「リスクインディケーター」に分けてみると(クラッセ 2002)、リスクをコントロールする上でとても分かり易くなります。このことは、「リスクに基づくカリエスマネージメントシステム ICCMS」にも手短に延べましたが、ここではさらに詳しくお話していきましょう。

齲蝕の病因論の基本はKeyesの3つの輪(食物、細菌、宿主)で示され(Keyes 1962)、ここから外れることはありません。Keyesの3つの輪が重なると、つまり、図1の黒い部分が生じると齲蝕が発症します。

3つの因子がそれぞれ存在していたとしても、何か1つの因子が十分に小さかったり(図2)、3つがそれぞれ少しずつ小さかったり(図3)して3つが重ならなければ、齲蝕は発症しません。



逆も真なりで、齲蝕が発症していないということは、これらの3つの輪が重なっていないということです。この3つの因子は歯面上での酸産生に直接影響を与える生物学的、化学的な因子で、これらを「リスクファクター」と呼びます。

一方、このKeyesの3つの輪の外に、これらの3つの因子に影響を及ぼす要素があります。行動学的因子、心理学的因子、環境因子がそれにあたり、これらを「リスクインディケーター」と呼びます(図4)。


「リスクインディケーター」は歯面に直接影響を与えない要素ですが、間接的にKeyesの3つの輪の因子(リスクファクター)に影響を与えます。故ダグラス・ブラッタール先生は次のような例を出して「リスクファクター」と「リスクインディケーター」を私に説明してくれました。

“クリスマスツリーを飾る家の子どもたちに齲蝕が少ないという研究結果が出た。クリスマスツリーは齲蝕のリスクファクターと言えるだろうか?”

スウェーデンではクリスマスツリーというのは人の背丈より高い本物のモミの木で、生活に余裕がないと買えないかもしれません。ということは、クリスマスツリーを飾る家の親はある程度の収入があり、教育レベルも高いということが予想されます。そういう家庭では、おそらく安くて甘くて体に悪そうなジャンクフードを子どもに与えないようにしたり、フッ化物配合歯磨剤を使って仕上げ磨きをきちんとしたりしているかもしれません。実際、クリスマスツリーを飾ることが齲蝕を予防しているわけではありませんので、これは「リスクインディケーター」になります。

術者が介入できるのは「リスクファクター」のみで、「リスクインディケーター」に介入することはできません。齲蝕が多発する患者さんに「クリスマスツリーを飾ってください」と言うことは決してありませんね。どうしてその患者さんに齲蝕が多発するのか、その理由を探って原因療法をするには「リスクファクター」を紐解き、介入するのみです。それを間接的ではあっても影響力の強い「リスクインディケーター」(例えば社会経済因子など)に引きずられて「リスクファクター」と「リスクインディケーター」を同等または「リスクインディケーター」のみを扱い、齲蝕の病因論は難しいと思ってしまうと、予防はにっちもさっちもいかなくなります。

「リスクインディケーター」の影響力がどんなに強くても、それは結局のところ「リスクファクター」に影響を与えているのですから、術者は「リスクファクター」の何が原因になっているのかを評価して初めて的を射た予防ができます。また、「リスクインディケーター」の中には環境が違えば影響を与えないものもあります。社会経済因子に関していえば、20世紀前半以前の日本では、贅沢病だった齲蝕は、逆に貧困層の方が少なかったのです。

最後に「過去の齲蝕経験」も「リスクインディケーター」です。これも疫学調査でハイリスク者を見つけるのにはとても良い指標ですが、診療室で「過去の齲蝕経験」の多い患者さんに出会った時に、術者として介入するには、やはり生物学的、化学的な「リスクファクター」を評価する必要があります(Bratthall 2005)。つまり、60年前に発表されたKeyesの3つの輪から離れることはないわけです。

本記事は、2022年6月19日の「日曜のフィーカ」の内容に基づいています。

参考文献
ボー・クラッセ. 2002. 予防マネジメントの実践,アポロニア21. 98(2,3):120-127.
Keyes P. 1962. Recent advances in dental caries research. Bacteriology. Bacteriological findings and biological implications. Int Dent J. 12:443-464.
Bratthall D, Hänsel Petersson G. 2005. Cariogram--a multifactorial risk assessment model for a multifactorial disease. Community Dent Oral Epidemiol. Aug;33(4):256-64. 

著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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