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肩書きは現代美術作家?アートと歯科医療を掛け合わせて、ヘルスリテラシーの向上を目指して VOL1

肩書きは現代美術作家?アートと歯科医療を掛け合わせて、ヘルスリテラシーの向上を目指して VOL1
肩書きは現代美術作家?アートと歯科医療を掛け合わせて、ヘルスリテラシーの向上を目指して VOL1
口腔顔面痛の専門家であり、普段は首都圏で訪問歯科診療を行う長縄拓哉先生は現代美術作家としても活躍されています。でも、どうして歯科医師が現代美術を?その理由を訊ねたら、「アートも医療の延長線上なんです」と長縄先生。それはいったいどういうことなのでしょうか。詳しくお話を伺いました。

「歯科医師」と「現代美術作家」2つの顔をもつ

長縄先生は現在、訪問歯科診療を中心に行われているとお聞きしました

はい。もともとは大学病院で口腔顔面痛の外来を担当していましたが、現在は週に3回、首都圏で訪問歯科診療を行っています。訪問先でも口腔顔面痛の方を診ることはありますが、一般的な高齢者の診療が中心です。その他、「一般社団法人訪問看護支援協会」と一緒に立ち上げた医療・介護従事者向けの口腔ケア資格講座「BOC(Basic Oral Care)プロバイダー」の統括医師の仕事などもしています。

今日は長縄先生の個展『にゃんこリーダーとヘルスリテラシー展』にお邪魔していますが、歯科医師としての仕事の他にも現代美術作家としての仕事をされているんですね

そうですね。依頼を受けて年に十数点の作品を描いています。個展は3年ほど前から年に1、2回のペースで開催しています。 長縄先生の個展が開催された「創英ギャラリー」(東京都中央区銀座)の外観(上)と展示の様子(下)。

長縄先生は『月刊美術』の「ネクストブレイク作家」に選出されるなど、美術業界からも注目されています。そもそも歯科医師でありながら、どうして現代美術の活動を始めたのでしょうか?

子どもの頃から絵を描くことが好きだったのですが、きっかけはデンマークへの留学です。僕が在籍していたオーフス大学は週に数時間程度の外来診療しか行わなくてよく、自分の研究に没頭できる環境がありました。時間がたっぷりあったこともあり、研究の一環として絵を描き始めたんです。

絵画制作が研究に?

そうです。デンマークでは視覚や嗅覚、聴覚刺激といった周辺環境によって変化する人の感覚や痛みに関する研究を行っていました。例えば、ヘッドギアで頭部を締め付けて痛みを感じているときに、体の別の箇所を刺激してもそちらの痛みはそれほど感じません。周辺環境によって痛み自体がなくなることはありませんが、何かしらの変化が起きることは確かなんです。そこで僕が描いた絵を被験者に見せることで感覚や痛みにどんな変化が生じるのかという調査をしました。その結果、「絵画による痛みの軽減効果は、人それぞれで証明できない」という結論に至りました。

「人それぞれで証明できない」とは具体的にどういうことなのでしょう?

よく病院の壁に絵が飾られていることがあります。でも、それを見てリラックスするかどうかは人それぞれなんです。小児科の部屋に可愛らしい動物の絵が描いてあっても、その動物が好きな子もいれば、トラウマを持っている子もいます。絵を見て疼痛が和らぐことはまるっきりないとは言えないけれど、それは人それぞれの主観の問題で、確立されるようなものではないということです。「絵画を見て痛みが取れることはなさそうだ」ということが「分かった」だけでも一つの成果だったと感じています。

研究が終わった後も作品を作り続けていたのでしょうか?

帰国後、SNSに作品を投稿していました。そうすると知人の医師から「医院に飾る絵を描いて欲しい」と依頼が来るようになりました。そこから美術作家としての活動が始まったのです。一方でデンマークに留学した理由は口腔顔面領域の難治性疼痛のメカニズムを解明するためでした。というのも当時、勤めていた大学病院で僕は何人もの口腔顔面痛の患者さんと出会ったんです。けれども、勤め先にはこの病気を専門に診る先生がいませんでした。患者さんたちが抱える痛みに対してアプローチする先生がいないのなら、僕が挑戦してみようと思い、この分野で有名なオーフス大学に留学しました。帰国後に専門外来を立ち上げましたが、どんなに知識を身につけていても実際には治せない患者さんがたくさんいて、そこでまた新たな課題を抱えるようになってしまいました。 デンマーク留学中での1コマ。 留学中の仲間との歓談の様子。 海外での学会発表。

口腔顔面痛の治療は難しいんですね。それが新たな課題になったと

はい。痛みは慢性化するほど病態が複雑化し、診断も治療も難しくなります。どうして最初の痛みは放置されたのだろうか。そもそも最初の痛みはどうして起きたのだろうか。もしかしたら最初の痛みを予防できれば、口腔顔面痛で悩む患者さんを減らせるんじゃないか。でも、具体的に何をすればいいのだろう。そんなことを考えていました。そうした時に見つけたのが専門職大学院「デジタルハリウッド大学大学院」の「デジタルヘルスラボ」という研究科目でした。この教室にはデジタルヘルス分野での革新を志す企業家や医療関係者が集まっていて、皆さん、僕と同じように「生活習慣病を予防したい」とか「予防の話をどうすれば健康な人に伝えられるだろうか」という課題を抱えている方たちばかりでした。 <次回へ続く> 【関連記事コンテンツリンク】 肩書きは現代美術作家?アートと歯科医療を掛け合わせて、ヘルスリテラシーの向上を目指して VOL1 肩書きは現代美術作家?アートと歯科医療を掛け合わせて、ヘルスリテラシーの向上を目指して VOL2

著者長縄拓哉

歯科医師(医学博士)。ムツー株式会社代表取締役。

略歴
  • 東京歯科大学卒業。
  • 都内大学病院で口腔腫瘍、顎顔面外傷、口腔感染症治療に従事。
  • デンマーク・オーフス大学に留学し、口腔顔面領域の難治性疼痛(OFP)について研究。
  • 口腔顔面領域の感覚検査器を開発し、国際歯科研究学会議(IADR2015、ボストン)ニューロサイエンスアワードを受賞。
  • デンマークと日本の研究活動推進プロジェクトJD-Teletech日本代表。
  • (一社)訪問看護支援協会BOCプロバイダー認定資格講座総括医師。
  • 日本遠隔医療学会・歯科遠隔医療分科会長。
  • 日本口腔顔面痛学会評議員、同学会診療ガイドライン作成委員。
  • 日本口腔内科学会代議員。
  • 厚生労働省教育訓練プログラム開発事業 メディカルイノベーション戦略プログラム委員。
  • 千葉大学遠隔医療マネジメントプログラム委員。
長縄拓哉

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