TOP>コラム>フィンランドでの学会でフッ化ジアンミン銀

コラム

フィンランドでの学会でフッ化ジアンミン銀

フィンランドでの学会でフッ化ジアンミン銀
フィンランドでの学会でフッ化ジアンミン銀
2023年春スウェーデン研修旅行の後、すぐにイエテボリ空港からフィンランドのヘルシンキ空港、そしてオウル空港へ飛びました。
2023年5月4日〜5日にオウル大学で開催されるThe Dental Association of The Arctic Circle (DAAC) の学会に参加するためです。
このDAACというのは1982年から北極圏の都市で2年に1度開かれている学会で、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーの3国が入っています。
今年の参加人数は約100人、2日目はカリオロジーがテーマなので、カリオロジーを習っている最中のオウル大学歯学部4年生約50人も含まれていたようです。



私は1996年に歯学部を卒業してすぐに「カリオロジー」という単語を知って以来その虜になって、特に北欧のカリオロジーを学び続けてきましたので、このDAAC学会は魅力的でした。
ちょうどその前日まで隣国のスウェーデンにいるのですから、参加しない手はありません。
キーノートスピーカーの Dowen Birkhed 名誉教授からDAAC学会について教えてもらった時には即、参加したい旨伝えました。

そして後にプログラム内容を見てびっくり!
なんと、フッ化ジアンミン銀(Silver Diamine Fluoride: SDF)についての講演もあるではないですか。
2009年に Journal of Dental Research にSDFのことが掲載されてから、カリオロジー界ではこの日本初の齲蝕特効薬に注目しています。

Rosenblatt A, Stamford TCM, Niederman R. Silver Diamine Fluoride: A Caries “Silver-Fluoride Bullet.” Journal of Dental Research. 2009;88(2):116-125. 

私は、SDFを開発して1969年に博士論文で発表された西野瑞穗名誉教授に、参加予定のフィンランドの学会でSDFが講演演題になっていることをお話しました。

西野瑞穗, "フッ化アンモニア銀による乳歯齲蝕を進行抑制に関する研究," 阪大歯学誌, vol. 14, pp. 1-14, 1969 1969.

それと同時に、DAAC学会の主幹であるTarja Tanner 先生から、せっかくなので懇親会で日本のことを紹介してほしいと依頼がありました。
そこで、私は、自分は幸運なことに講演演題の一つであるSDFの開発者である西野瑞穗先生と懇意にしていただいているので、懇親会で西野名誉教授のメッセージを届けたいと提案しました。
DAAC学会側はこれまたびっくりで、是非にとのこと。
私は「飛び入り参加者」の立場から一変、重大な任務を担った「SDF大使」として迎えられたのでした。

私が参加した2日目のカリオロジーのプログラムは以下の通りです。

“Fluoride toothpaste - product- and behaviour related factors for caries prevention” Dowen Birkhed 名誉教授(85分)
“Silver Diamine Fluoride for preventing and arresting dental caries” Päivi Havela 先生(60分)
“Treatment of deep caries lesions according to modern concepts” Vuokko Anttonen 名誉教授(60分)
“Effects of caries and ageing on dentin” by Leo Tjäderhane 教授

最新の情報が満載の素晴らしい学会でした。
これらの内容はまた別の機会にご報告しましょう。



Havela 先生のご講演の最後には、司会の Tanner 先生が西野名誉教授の教え子として私を紹介され、SDFについて一言言ってほしいとのこと、私は後方の席からこのように答えました。

「SDFについては世界中で誤解がたくさんあります。開発者の西野瑞穗名誉教授はもう何年も前に退職されてしまったので。幸運なことに私は彼女と懇意にしてもらって、いわば、SDFの証人、伝道師、秘書のような立場です。たくさん言いたいことはありますが、西野名誉教授から聞いているSDFの使い方は、乳歯の軟化象牙質を除去せずにSDFを塗布する、歯は黒く変色するが、それを活かして子どもさんや保護者にプラークがここについていますよと教育し、食事習慣や口腔衛生習慣が改善されてから、軟化象牙質をエキスカベーターで取り除く、その際には局麻は必要ない、そしてグラスアイオマーセメントで充填するということです。」

一言にしては話し過ぎたかなと思って、

「私のNPO法人では、西野名誉教授の講義ビデオを撮っています。そのうち英語の字幕を付けてYouTubeに上げますのでURLをお知らせします。」

と言ったところ、一斉に前方の聴衆が私を見て「お願い、お願い」と頷くのが見えました。
世界中の歯科医師たちが、SDF開発者の張本人の講義が見たいのだということがよくわかりました。

懇親会では予定通り、私のプレゼンテーションをさせてもらい、西野名誉教授にいただいていたメッセージを英語に訳して紹介しました。

「Silver Diamine FluorideがDAACのトピックとして取り上げられましたこと大変嬉しく存じます。50年以上前、乳歯齲蝕の洪水時代であった日本において、永久歯に比べ齲蝕進行の極めて速い乳歯齲蝕を切削することなく、効果的に進行抑制するため、強力な殺菌作用を有する銀イオンと齲蝕予防作用を有するフッ素イオンを組み合わせた薬剤として開発したのがSDFです。現在世界中で使われていることにこころから嬉しく、感謝しています。今後ますます、小児齲蝕、高齢者の根面齲蝕、修復物下の処理、知覚過敏症等に対し応用されることを祈念しています。」

そして、西野名誉教授の数々の業績とお人柄の素晴らしさを説明して、一緒にスウェーデンを旅したことなどを話しました。
また、日本の桜のこと、24年前にオウルを訪れた時の思い出、私の高祖父の弟が日露戦争で戦死したこと(日露戦争はフィンランドの独立機運を高めたので、彼も少し貢献したのかも?!)など、たくさん笑ってもらい、ところどころで拍手ももらい、最後に Tanner 先生が、「私たちもSDFについてもっと知りたい、西野名誉教授のウェビナー録画を楽しみにしている」と結ばれました。

主幹の Tanner 先生は30代の女性。
こんなに若くてもしっかりと学会を運営する彼女の卓越したリーダーシップ、また彼女をサポートする周囲の先生方の温かさも、雪の残る5月のオウルでとても印象的でした。



著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

tags

関連記事