歯科医院を開業するためには、およそ数千万円の投資が必要です。
自己資金だけで投資金額をまかなうことが理想的ですが、なかなか厳しいもの。
そこで今回は、歯科医院が開業資金の融資を受ける方法や、資金融資の種類・条件について解説します。
歯科医院の開業に必要な資金について
歯科医院を開業するためには多額の資金が必要です。
どれくらい資金が必要になるのか、ケース別に見てみましょう。
・開業地:東京都 開業資金:5,500万円(うち自己資金2,000万円)
項目 |
金額(万円) |
医療機器 |
1,500 |
内装・外装工事 |
1,500 |
物件費 |
800 |
広告費その他 |
500 |
運転資金 |
1,200 |
合計 |
5,500 |
・開業地:神奈川県 開業資金:5,000万円(うち自己資金1,000万円)
項目 |
金額(万円) |
医療機器 |
1,500 |
内装・外装工事 |
1,600 |
物件費 |
600 |
広告費その他 |
- |
運転資金 |
1,300 |
合計 |
5,000 |
・開業地:茨城県 開業資金:4,500万円(うち自己資金1,500万円)
項目 |
金額(万円) |
医療機器 |
1,400 |
内装・外装工事 |
1,300 |
物件費 |
500 |
広告費その他 |
300 |
運転資金 |
1,000 |
合計 |
4,500 |
今回ご紹介したケースでは、4,500万円~5,500万円の開業資金となりましたが、あくまで目安です。
希望の物件や設備、スタッフの数などにより、資金は異なります。
開業資金の融資の種類と条件
資金不足で融資を受ける場合、どのような機関を頼ればいいのでしょうか。
ここでは、融資元や融資元が発行している融資の種類や条件について解説します。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、国が管轄する最もポピュラーな融資機関です。
ほかの機関に比べると融資の審査が寛容であり、利用しやすい特徴があります。
融資金額 |
最大で7,200万円
※運転資金は4,800万円 |
返済期間 |
設備資金:20年以内(据置期間:3年)
運転資金:7年以内(措置期間:1年) |
金利 |
固定金利で、利率は返済期間別に定められます。2.0〜3.9%ほど。
期間が短ければ低くなり、長ければ高くなります。 |
担保・保証人 |
新規創業制度であれば無担保、保証人無しで借り入れできます。
ただし、融資の上限額は3,000万円で、基準金利に対して1.2%がプラスされます。 |
そのほかの条件 |
- |
独立行政法人 福祉医療機構
福祉医療機構は、厚生労働省が管轄する医療機関・福祉施設の運営者へ貸付を行っている機関です。
長期間・低金利・固定金利で借り入れるため、テナントより戸建ての住宅ローンなどで選ばれやすい機関です。
融資金額 |
建築費:5億円以内
土地取得費:3億円以内 |
返済期間 |
耐火建築物(RC造):20年(据置期間:2年)
準耐火建築物以下(RC造以外):15年(据置期間:2年) |
金利 |
0.9%の固定 |
担保・保証人 |
必要です。個人の開業は、1名以上の連帯保証人を必要とします。
しかし、金利に一定の利率をプラスすれば個人の保証を免除できます。 |
そのほかの条件 |
歯科診療所は、機構の定める「診療所不足地域」である必要があります。 |
民間銀行
民間銀行は、他と比較すると融資のハードルが高いです。
都市銀行・メガバンクと地方銀行では、融資先の好みは異なります。
都市銀行・メガバンクは、新規開業者への融資に消極的で、開業の実績を持つ歯科医院に積極的な傾向があります。
一方の地方銀行は、新規開業であっても積極的な融資を行う銀行もあります。
条件は銀行によって異なるため、一例として佐賀銀行の事例を記載します。
融資金額 |
100万円以上1億円以内 |
返済期間 |
設備資金:20年以内(据置期間:1年)
運転資金:7年以内(措置期間:6ヶ月) |
金利 |
所定の金利 |
担保・保証人 |
原則無担保。ただし、取得する土地・建物の抵当権を設定します。
連帯保証人は配偶者(配偶者のいない場合は法定相続人1名)です。 |
そのほかの条件 |
診療報酬の振込は佐賀銀行口座など |
リース会社
医療機器のリースを行う「リース会社」の中には、開業資金の融資を行うサービスをしているところもあります。
民間銀行に比べて審査から入金までのスピードが早く、審査のハードルも低い一方で、銀行よりも金利が高い傾向にあります。
リース会社によって条件が異なるため、一例として三菱UFJリースの事例を記載します。
融資金額 |
500万円以上4,000万円以内 |
返済期間 |
最長7年(据置期間は6ヶ月まで) |
金利 |
年1.5%~ |
担保・保証人 |
連帯保証人1名あるいは団体生命信用保険への加入を必要とします。 |
そのほかの条件 |
医療機器のリース |
コンサルタント会社
歯科医院開業のコンサルタント会社も、リース会社同様にサービスの一環で融資を行うこともあります。
条件はコンサルタント会社により異なるため、一例として株式会社ジャパンデンタルの「JDローン」の事例を記載します。
融資金額 |
100万円~1億5千万円 |
返済期間 |
最長30年
(360回・元利均等返済方式で、毎月5日にご指定の銀行口座からのお振替となります。)
ご返済期間内であれば、最長3年間の元金据置条件の設定が可能です。 |
金利 |
1.9%~4.8%(実質年率 2.0%~5.2%)
短期プライムレート変動に伴い、年2回見直しを行います。(金利変動制) |
担保・保証人 |
原則不動産担保、法定相続人1名 |
そのほかの条件 |
- |
歯科医院が開業の資金融資してもらう手順・ステップ
歯科医院の開業に必要な資金を借り入れるために、必要な手順・ステップについて解説します。
STEP1 融資の申し込み
融資先で決められた借り入れ申込書に必要事項を記入しましょう。
事業計画書や身分証明書(運転免許証など)の提出も求められます。
融資機関にとって、事業計画書は「この歯科医院に融資して、きちんと返済できるか」の判断材料ですので、信頼してもらえる事業計画書を作りましょう。
詳しく知りたい方は、下記の記事を参照してください。
【参考】
歯科医院の開業に必要な事業計画書の作り方は?必要性や手順、注意点を解説
STEP2 面接
面接では、歯科医師の信用度をチェックされます。
歯科医師の過去の経歴(勤務年数、勤務場所など)、過去の収入(源泉徴収票、確定申告書など)、過去の支払い履歴(自宅の賃貸契約書、住宅ローンの返済表・給与口座・生活用口座:6ヶ月分)などが確認されます。
STEP3 審査
提出した書類や面接の情報を基に融資審査をします。
審査にかかる期間は、融資機関によって異なります。
この時に、開業予定地の現地確認や追加の資料請求などがあります。
STEP4 実行
無事に審査に通れば、融資を受けられます。
開設届けや領収書、金銭消費貸借契約書、振込口座確認書類、印鑑証明書、団体信用生命保険申込書などの提出を求められます。
万が一、融資額が希望に満たなければ、追加で別の機関から融資を受ける必要も出てくるでしょう。
歯科医院が資金融資をスムーズに進めるポイント
「この歯科医院の返済能力は低い」と判断されれば、融資を受けられないケースもあります。
ここでは、資金融資をスムーズに進めるために大切なポイントを解説します。
負債をゼロにする
歯科医師個人の負債をゼロにします。
クレジットカードの借り入れがある場合は、すべて清算しましょう。
過去に1ヶ月以上の支払い遅延、債務整理、携帯電話の分割払いの未払いなどがあると、いわゆるブラックリスト(信用情報機関)に掲載される恐れも。
ブラックリストからは5~10年経つまで名前を消せないため、注意しましょう。
自己資金を貯める
すべてを融資に頼らず、できるだけ潤沢に自己資金を貯めておきましょう。
金額は、開業にかかる投資額の3分の1が理想的です。
たとえば、開業に6,000万円必要なら、2,000万円の貯蓄を目指しましょう。
自分で目標額を貯めることが最も評価されますが、家族や親族からの支援であっても「自己資本比率が高い」と判断されるため、融資を受けられる可能性が高まります。
担保・保証能力を示す
融資機関は、歯科医師の担保・保証能力を特に重要視します。
万が一、歯科医院で返済できなくなった場合であっても、担保(不動産や土地など)や保証人(家族や親族など)を頼れば返済ができるからです。
返済能力を示す
担保・保証能力は、現状での返済能力の高さを示します。
一方で、将来的な返済能力の高さを示すのが「事業計画書」です。
診療圏調査に基づき、根拠ある集患者数の予測や得意とする診療科目のニーズなど、「利益を出せる歯科医院である」ことを事業計画書で示すことが、金融機関から「返済能力が高い」と判断されるポイントとなります
。
複数の機関から融資を受ける
融資額が大きくなるほど、審査も通りにくくなります。
はじめての開業で実績もなければ、多額の融資を受けることは極めて難しいでしょう。
減額になることを見越して、複数の機関に融資審査を出すのも一つの手でしょう。
事前準備を徹底してスムーズな融資を
金融機関から融資を受けるためには、開業を決めた段階からの準備が大切です。
計画的に自己資金を貯め、担保・保証能力や返済能力を高めておきましょう。
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