カリエスリスク評価モデルについては、今までに以下のような記事を投稿しました。

スッキリ納得、カリエスリスクファクターの考え方
カリエスリスク評価に生化学的検査を入れない場合 
リスクに基づくカリエスマネージメントシステム ICCMS 

それでは歯周病のリスク評価モデルにはどのようなものがあるのでしょうか。
ちょうど、それらに関するレビュー論文が出たところで、これに基づいて紹介していきましょう。

Farina R, Lopez R, Simonelli A, Trombelli L. Accuracy and applicability of periodontitis risk assessment tools: A critical appraisal. Periodontol 2000. 2023 Jul 13. doi: 10.1111/prd.12498. 
まず最初に、天邪鬼的ですがこのレビュー論文の最後から見ていきます。実は最後に最も重要な情報が述べられているものなのです。それは、Acknowledgements （謝辞）や、Conflict of Interest（利益相反）で、著者らのバックグラウンドが宣言されているので、それによってはちょっと色眼鏡をかけて論文全体を読むことになります。もし論文の最初から素直に読んでいくと、最後に「え、そうだったのか」と自分の解釈を変更することになるかもしれませんので、そんな二度デマを減らすためです。

このレビュー論文ではファースト・オーサー（Trombelli）とラスト・オーサー（Farina）が、PerioRisk という歯周病リスク評価モデルを開発したとのこと。経済的な関与はないとはいえ、どうしても彼らの知識の多くはこの PerioRisk に纏わることになるでしょう。そのような理解を念頭において、解釈していきます。

このレビュー論文では、歯周病リスク評価モデルとして、以下の7つが紹介されています。

• Health Improvement in Dental Practice (HIDEP) model
• Periodontal Risk Calculator
• Periodontal Risk Assessment (PRA)
• UniFe/PerioRisk
• Dentition Risk System
• Risk Assessment–Based Individualized Treatment (RABIT)
• Periodontitis Grade


HIDEPモデルは、スウェーデンで開発されたもので、同じく、スウェーデン発のカリエスリスク評価モデルである Cariogram と親和性が高いようで、歯周病だけでなくカリエスリスク評価も兼ね合わせていて、パラメータは Cariogram とよく似ています。歯周病に関しては残存歯数、歯肉出血、プロービング深さ、歯石、X線診を調べるようになっています。リスクの総合判定は５段階でランクを付けられます。2001年に発表されたものの、まだ長期コホート研究で妥当性を証明されたわけではありません。


Periodontal Risk Calculatorは、故Roy C Page先生がスーパーバイザーで開発されて、PreViser社を通して様々な国で販売されています。日本ではOHISの名前で販売されているものです。実は、私はこの歯周病リスク評価モデルについてPage先生が日本の書籍向けに書かれたものと、OHIS日本語版も翻訳させてもらいましたので、とても馴染みが深いです。

見てわかる！ 歯周病リスク評価と臨床応用　OHISリポートでスムーズなメインテナンス（熊谷崇・Roy C.Page著　医歯薬出版　2008年）

パラメータは9つあり、年齢、喫煙歴、糖尿病、歯周外科の既往歴、ポケット深さ、分岐部病変、歯肉縁下におよぶ修復物や歯石の存在、X線診での歯槽骨高さと垂直性骨欠損です。リスクの総合判定は５段階でランクを付けられます。長期コホート研究では、まず後ろ向きのデータで妥当性を証明されていました。歯周病に対する処置介入がされていないデータなので、後に述べる他の歯周病リスク評価モデルが網羅していない基本的な知見が得られています。その後、サポーティブペリオドンタルケアをしている患者さんに対する妥当性も調べられています。しかし、10年以上のフォローアップ期間で、4つのモデル（Periodontal Risk Calculator, PRA, Periodontitis Grade）のうち PerioRiskやPRAに比較して予後判定の低さが指摘されています。


PRAは、クモの巣状の形をしたチャートに6つのパラメータが配置されているモデルです。スウェーデン・マルメ大学の歯周病に関する日本人向け講演でもこれが紹介されました。パラメータについては研究者により修飾されていますが、基本的には、年齢に対する歯槽骨吸収、5ミリ以上のポケットの数、喪失歯数、プロービング時の出血、喫煙、全身や遺伝の因子の6つです。リスクの総合判定は3段階でランクを付けられます。長期コホート研究では、サポーティブペリオドンタルケアをしている患者さんに対する妥当性が調べられています。10年以上のフォローアップ期間で、4つのモデル（Periodontal Risk Calculator, PRA, Periodontitis Grade）のうち PerioRisk に次いで2番目に予後判定が高かったです。


PerioRiskは前述のようにこのレビュー論文の著者の一部が開発に関わっているモデルです。5つのパラメーターがあり、それらは喫煙、糖尿病、5ミリ以上のポケットの数、プロービング時の出血、年齢に対する歯槽骨吸収です。リスクの総合判定は５段階でランクを付けられます。長期コホート研究では、これもサポーティブペリオドンタルケアをしている患者さんに対する妥当性が調べられています。10年以上のフォローアップ期間で、4つのモデル（Periodontal Risk Calculator, PRA, Periodontitis Grade）のうち最も予後判定が高かったです。


Dentition risk systemはスウェーデンのDentoSystem Scandinavia ABという企業が中心に開発したモデルで、ウェブサイト上で利用されるものです。17のパラメータがあり、それらは、年齢、歯周炎に関する家族歴、全身疾患、炎症反応を調べるための皮膚の検査、コンプライアンスと意識、社会経済因子、喫煙、術者の歯周病治療の経験、プラーク、歯内病変、分岐部病変、垂直性骨吸収、X線診による辺縁性歯槽骨吸収程度、ポケット深さ、プロービング時の出血、歯肉縁付近の修復物、歯の動揺度です。リスクの総合判定は1までの連続値で表されます。長期コホート研究では、4ヶ月毎のサポーティブペリオドンタルケアをしている患者さんに対する妥当性が調べられています。


RABITは米国・ケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究者によるもので2013年に発表されているものの、ほとんど情報がありません。


Periodontitis Gradeはお馴染みの2017年に発表された米国歯周病学会と欧州歯周病学会が合同で作った歯周病分類ガイドラインに採用されているものです。パラメータは3つのカテゴリーがあり、それらは歯周病進行に直接的な所見（X線診での骨吸収または臨床的アタッチメントロス）、間接的な所見（年齢に対する骨吸収の％、症例の特徴）、Gradeを修飾する因子（喫煙、糖尿病）です。合計5つのパラメータのに基づいて、リスクの総合判定は3段階でランクを付けられます。長期コホート研究では、サポーティブペリオドンタルケアをしている患者さんに対する妥当性が調べられています。10年以上のフォローアップ期間で、4つのモデル（Periodontal Risk Calculator, PRA, Periodontitis Grade）のうち最も予後判定が低かったです。


以上が7つの歯周病リスク評価モデルのまとめとなります。このレビュー論文の著者らが強調していたことの一つに、リスク評価には予後判定の正確性を求められますが、それはあるリスクを持つグループ単位の正確性であって、個人の患者さんに必ずしも正確に当てはまるわけではないということがありました。例えば、喫煙者でも肺がんにならない人もいれば、非喫煙者でも肺がんになる人がいるように。その意味で、カリエスリスク評価モデルも同様ですが、ある特定の患者さんの未来予測は大変難しいものです。しかし、リスク評価モデルを患者教育に使うことによって、その患者さんのモチベーションが高まったり、病因論への理解が深まったりして、結果としてリスクの軽減が図られるという大きな利益が認められます。