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2024年秋スウェーデン研修旅行報告

2024年秋スウェーデン研修旅行報告
2024年秋スウェーデン研修旅行報告
2023年春スウェーデン研修旅行に引き続き、2024年11月9日~11月16日に、スウェーデンのマルメとイエテボリでの日本人歯科医療従事者向け研修旅行を通訳兼コーディネートしました。
参加した日本人は、歯科医師が2人、歯科衛生士が4人、その他1人の合計7人でした。
お世話になったスウェーデン人は、マルメ在住のDowen Birkhed名誉教授、マルメ大学のDan Ericson上級教授、Anders Hedenbjörk Lager准教授、Nina Lundegren准教授、Marie Nordström先生(PhD課程)、Per Alstergren歯学部学部長、ヴェストラ・イェータランド県公立歯科サービスのKatharina Wretlind先生とEva-Karin Bergström先生でした。

それに加えて、Ericson上級教授がアレンジしてくださったおかげで、プライベート歯科医院(Limhamns Tandläkargrupp)と公立歯科医院(Folktandvården, Malmö Mobilia)の見学をすることもできました。昨今は患者さんの個人情報を保護する観点で歯科医院の見学は困難になってきているので、大変貴重な経験をさせてもらいました。

研修旅行の日程は以下の通りでした。

11月9日(土) 
コペンハーゲン空港到着。
マルメ市内のトリアンゲルンまでオレスンド橋を電車で渡って移動。
トリアンゲルンのカフェで朝食を取った後、Birkhed 先生と合流して地下鉄で一駅のヒリエまで移動。Emporiaという巨大ショッピングセンターで買い物と昼食。
地下鉄が運行中止になっており、帰りはヒリエからマルメ中央駅まで代替バス。マルメ中央駅からは市内観光がてら徒歩でトリアンゲルンのホテル(写真)へ。
夕食はBirkhed 先生が推薦してくれたレストランで日本人だけで。Birkhed 先生が愛犬 Lykke との散歩途中に立ち寄ってくれました。



11月10日(日) 
マルメ市内観光。Pildammsparken(写真)を Birkhed 先生と Lykke と一緒に散歩をした他、中心街やハーバーまで。
夕食は、レストランでBirkhed先生のPhD取得50周年のJubileeとお誕生日のお祝い。歯学部のPhD取得者が持つシルクハットも見せていただきました。



11月11日(月) 
マルメ大学歯学部の見学とセミナー(写真)。
講演のトピックスと演者は、
"Caries classification and prognosis" Dan Ericson 上級教授
“Salutogenesis and dental caries” Marie Nordström先生
“Education of dental students and dental hygienists” Nina Lundegren 准教授

昼食を講師らと取って歓談し、マルメ大学歯学部へ戻って学部長のPer Alstergren教授へ挨拶。月刊誌「歯界展望」の連載記事(北欧モデル スウェーデン歯科医療のホントのところ)に協力してくれたお礼を言いに行くことが目的でしたが、歓待をしてくださり、スウェーデンの歯学教育やマルメ大学の概要も説明してくれました。



11月12日(火) 
プライベート歯科医院と公立歯科医院の見学
ルンド市内観光の後、マルメ中央駅からイエテボリ中央駅へ鉄道で移動。



11月13日(木)
Swedental(北欧最大のデンタルショー)の1日目に参加。
夕食はヘルスプロモーターという歯科における新しい役割を開発した Katharina Wretlind先生とEva-Karin Bergström先生とご一緒して、開発経緯や現在の状態を教えてもらいました。



11月14日(金)
Swedentalの2日目に参加。
夕食はスウェーデン歯科学会の60周年をお祝いするパーティに参加し、月刊誌「歯界展望」の連載記事(北欧モデル スウェーデン歯科医療のホントのところ)の共同執筆者であるBjörn Klinge先生や2023年春スウェーデン研修旅行でお世話になった Ola Norderyd 先生とも再会しました。



11月15日(土)
イエテボリ市内観光。
Swedentalの3日目に参加。

11月16日(日)
イエテボリ空港出発。

今回の研修旅行は、私のオンラインセミナーである「日曜のフィーカ」でお伝えしているアカデミックリテラシーの基礎を習得し、参考文献としてデンタルライフデザインの記事「2023年春スウェーデン研修旅行報告」「未来の予防歯科の足音」「フラットでフェアで中味重視の社会の強み」 および書籍「トータルカリオロジー」、「トータルペリオドントロジー」、それから月刊誌「歯界展望」の連載記事(北欧モデル スウェーデン歯科医療のホントのところ)を熟読している方たちという厳しい条件で参加者を募りました。よって参加者というよりも一次情報の貴重さや大切さを共有する「同志」という感覚でした。

インターネットを通して世界中の情報を簡単に得られる時代に、なぜわざわざ遠く離れた土地まで行って一次情報を見聞することがそんなに重要かというと、私自身は以下のように考えています。日本で得る二次情報、三次情報はどうしても誰かのフィルターがかかってしまうために、その「誰か」の解釈の真偽に依存せざるを得ないところにあります。フィルターを取っ払って、自分自身で一次情報を解釈するという自由を得た時、もう他人に振り回されることはありません。そしてその自由はもっと学びたい、もっと向上したいという今までの何倍もの高いモチベーションを与えてくれます。それくらい高いモチベーションは、二次情報、三次情報に囲まれている受動的環境では、なかなか得られるものではありません。

さて、私のフィルターを通した二次情報になってしまいますが、今回の研修旅行で感じたことを3つ述べましょう。まず、エコロジーに対する配慮がどんどん浸透していること。Swedentalでは、竹の柄の歯ブラシ、錠剤タイプの歯磨剤、紙パックに入った洗口剤などが目につきました。会場には持参したボトルに飲料水を入れるためのスポットが備えられていました。北欧のホテルの備品は日本のホテルに比べてもともとかなり簡略化されていましたが、さらに簡略化されていました。朝食のビュッフェには、「食べ物を無駄にしないで」といったメッセージも書かれていました(写真)。マルメ市の目抜き通りにはセカンドハンドショップができ、人気があるとのことです。

次に、時間の重要性もより強調されていると感じました。日本でも「タイパ(タイム・パフォーマンス)」と表現されますが、例えば、友人の看護師によると公立病院より少々費用が高くても早く診てもらえるプライベート病院の方に行く人が増えているらしいです。歯学部大学病院では、学生診療は普通診療の10分の1の歯科医療費に設定されていても患者さんの確保が難しいとのことです。昔は、3分の1の費用でも、年金受給者や移民の人たちなど、所得が低くても時間のある人は喜んで学生診療を選ぶと聞いていました。去年、報告したマルメ大学歯学部で導入し始めた教育モデル ”Challenge-based learning (CBL)” は、教員の束縛時間が以前の問題解決学習法(Problem-based learning: PBL)モデルより少ないというのも特徴の一つだそうです。

最後は、米国大統領選挙が終わったところだったので、その結果として世界情勢の不安を耳にすることがしばしばでした。スウェーデンはロシアの脅威からウクライナ戦争が勃発してすぐに北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization: NATO)の加盟申請を行い、ナポレオン戦争以来、約200年続いた中立政策を転換しました。米国の次期大統領がウクライナよりロシア寄りのトランプ氏になることは、スウェーデン国民の大半が反対していました。スウェーデンとロシアに挟まれたバルト海に浮かぶ島の中には、もともとスウェーデン領だったのがロシアに侵略されたものがあり、ウクライナ戦争でロシアが勝利した場合、バルト海に浮かぶ他の島への力による侵略の恐れも現実味を帯びてきます。同じ月にスウェーデン政府は国民に戦争に備えるためのパンフレットを発行しました。

「ロシアは大きい国だからスウェーデンの隣国でもあるけど、日本の隣国でもあるわよね。日本人はトランプ氏が選ばれたことにどう思っているの?」「北方領土についてはどう思っているの?」と、夕食の席で私たち日本人グループに聞かれた時、確かにスウェーデンと似た境遇にある日本でありながら、友人間でこういう話題をすることがほとんどないのはなぜだろうと思い巡らしました。日本では個を抑えて集団を均質にすることがその場を安定する感覚があります。一方、海外の友人とは政治の話でも「自分の意見を言うこと」や「人の意見を聞くこと」に安心感を感じます。そういう違った意味での和やかな議論の場が日常的に存在していることを再確認しました。

追記
スウェーデンの歯科医療についてはこちらも参考にしてください。

北欧モデル スウェーデン歯科医療のホントのところ
歯界展望 2024年1月号〜12月号

著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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