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コラム

MIH(第一大臼歯と切歯に限局して生じるエナメル質形成不全)にフッ化ジアンミン銀

MIH(第一大臼歯と切歯に限局して生じるエナメル質形成不全)にフッ化ジアンミン銀
MIH(第一大臼歯と切歯に限局して生じるエナメル質形成不全)にフッ化ジアンミン銀
先月の記事「MIH:第一大臼歯と切歯に限局して生じるエナメル質形成不全」 の続きで、MIHの進行抑制にフッ化ジアンミン銀が有効ではないかと考え、「日曜のフィーカ」 で MIHに関するウェビナーをしてくださったDowen Birkhed先生とフッ化ジアンミン銀の“母”(開発者)である西野瑞穂先生にご意見を伺いました。お二人とも、第一大臼歯に関しては有効な手段であろうとのご見解でした。さらに、米国小児歯科学会が2024年に出版したMIHに関する公式見解でも、フッ化ジアンミン銀が推奨される方法の一つとして明記されていました。
Official but unformatted. Molar-Incisor Hypomineralization. Adopted 2024 | American Academy Pediatric Dentistry 

フッ化ジアンミン銀は、もともと乳歯齲蝕の進行抑制を目的に開発されたものですが、その後、知覚過敏症、歯内療法、根面齲蝕、酸蝕症にも応用され、良好な結果を示しています。MIHに対しても、今後“特効薬”となる可能性があるでしょう。余談ですが、近年問題になっている馬の齲蝕にも応用できそうだと、Birkhed先生はお考えのようです。

デンタルライフデザインの中では、以下のようなフッ化ジアンミン銀に関する記事を執筆させていただきました。

・「たくさんの子どもの命を救ったヒーロー 」「失活歯の二次齲蝕予防にフッ化ジアンミン銀は? 」「フィンランドでの学会でフッ化ジアンミン銀」「ノーベル賞の思い出」 

MIHへの影響についてPubMedで調査したところ、2025年4月23日時点で7本の論文が見つかりました。以下の検索ストラテジーを用いました:
("molar hypomineralization"[MeSH Terms] OR ("molar"[All Fields] AND "hypomineralization"[All Fields]) OR "molar hypomineralization"[All Fields] OR ("molar"[All Fields] AND "incisor"[All Fields] AND "hypomineralization"[All Fields]) OR "molar incisor hypomineralization"[All Fields]) AND ("silver diamine fluoride"[Supplementary Concept] OR "silver diamine fluoride"[All Fields])

以下がその7本の論文です:

1: Cavalcante BGN, Mlinkó É, Szabó B, Teutsch B, Hegyi P, Vág J, Németh O, Gerber G, Varga G. Non-Invasive Strategies for Remineralization and Hypersensitivity Management in Molar-Incisor Hypomineralization-A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Med. 2024 Nov 26;13(23):7154. 

2: Saad AE, Alhosainy AY, Abdellatif AM. "Evaluation of Silver Diamine Fluoride Modified Atraumatic Restorative Treatment (SMART) on hypomineralized first permanent molar"- a randomized controlled clinical study. BMC Oral Health. 2024 Oct 4;24(1):1182.

3: Erbas Unverdi G, Ballikaya E, Cehreli ZC. Clinical comparison of silver diamine fluoride (SDF) or silver-modified atraumatic restorative technique (SMART) on hypomineralised permanent molars with initial carious lesions: 3-year results of a prospective, randomised trial. J Dent. 2024 Aug;147:105098. 

4: Bal C, Sozuoz MA, Sari MBD, Aksoy M. 1-year Results of Molar Incisor Hypomineralization-affected Cases Treated with Silver Modified Atraumatic Restorative Treatment: A Retrospective Study. Int J Clin Pediatr Dent. 2024 Jun;17(6):683-689. 

5: Al-Nerabieah Z, AlKhouli M, Dashash M. Preventive efficacy of 38% silver diamine fluoride and CPP-ACP fluoride varnish on molars affected by molar
incisor hypomineralization in children: A randomized controlled trial. F1000Res. 2024 May 7;12:1052. 

6: Al-Nerabieah Z, AlKhouli M, Dashash M. Parental satisfaction and acceptance of silver diamine fluoride treatment for molar incisor hypomineralisation in pediatric dentistry: a cross-sectional study. Sci Rep. 2024 Feb 24;14(1):4544.

7: Ballikaya E, Ünverdi GE, Cehreli ZC. Management of initial carious lesions of hypomineralized molars (MIH) with silver diamine fluoride or silver-modified atraumatic restorative treatment (SMART): 1-year results of a prospective, randomized clinical trial. Clin Oral Investig. 2022 Feb;26(2):2197-2205. 

いずれも2022年以降に発表された新しい研究であり、MIHに対してフッ化ジアンミン銀を応用するという視点は比較的新しいものだと分かります。研究デザインは、システマティックレビュー&メタ分析が1件、ランダム化比較試験が3件、前向きコホート研究が1件、後ろ向き研究が1件、横断研究が1件でした。なお、7番目のRCTと3番目のコホート研究は同一被験者を追跡したものでした。国別では、ハンガリー、エジプト、トルコ、シリアと多様でした。

興味深い点として、5本の論文でSMART(silver-modified atraumatic restorative treatment)に関する検討がなされていました。SMARTとは、齲蝕病変をまずフッ化ジアンミン銀で処理し、その後、従来型または高粘度グラスアイオノマーセメントで封鎖または修復する技術です。SMARTが開発される前には、ART(atraumatic restorative treatment)が広く知られていました。ARTは、ドリルの使用が難しい環境で手用インスツルメントを用いて齲蝕を除去し、その後グラスアイオノマーで修復する技術ですが、SMARTはそこにフッ化ジアンミン銀を加えた改良型です。ARTもMIHに対して効果的であることが示されていますが、SMARTも5本すべての論文で、齲蝕および知覚過敏の進行抑制に有効であるとの結論が得られていました。

一方、SMARTを使用していない2本の論文はシリアで実施されており、そのうちの1本は、フッ化ジアンミン銀単独と、CPP-ACP(casein phosphopeptide-amorphous calcium phosphate)とフッ化物を含むバーニッシュとの比較を行ったランダム化比較試験で、いずれの処置もMIHに有効であるとされていました。もう1本の横断研究では、MIHに対するフッ化ジアンミン銀塗布への保護者の満足度を調査しており、100%が簡便で無痛な処置であることに満足し、味や審美性といった負の側面を踏まえた総合評価でも、78%がこの処置に満足しているとの結果でした。

前回述べたように、MIH(特に臼歯部)への対応としては、フッ化物配合歯磨剤やCPP-ACPの日常使用、フッ化物バーニッシュの定期塗布、フィッシャーシーラント、修復(グラスアイオノマー、レジン、既製冠)などもありますが、SMARTも非常に有望な選択肢の一つであることが、学術的にいえるでしょう。

著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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